自分の内側の願いを起点にほしい未来を描き、一歩を踏み出す。 >さとのば生 プロジェクトレポート #02
- さとのば事務局
- 2022年6月28日
- 読了時間: 9分
更新日:2022年10月31日

自分の正直な想いを大切にしながら生きていくのは難しい。
やりたいことはなんとなくあっても、それをどう形にしたら良いかわからなかったり、行動する勇気が出なかったり。
さとのば大学には、そんな難しさを感じながらも「本当に自分が願うこと」に仲間とともに挑戦してきた卒業生たちがいます。
さとのば生のプロジェクトを紐解く「さとのば生 プロジェクトレポート」
第2弾は、2022年2月のさとのば大学春季特別講義に参加した卒業生、三浦遼馬さんへのインタビューです。
聞き手は、同講義にて学びのサポート役であるラーニングアシスタントを務めた黒澤が担当します。

三浦遼馬(みうらりょうま)さん
2002年埼玉県生まれ。桜美林大学リベラルアーツ学群1年。
中高時代、学校外の学びの機会に積極的に参加していて、探究学習やPBL、地域創生などのキーワードに興味がある。歴史、人と話すこと、物事について深く考えていくことが好き。さとのば大学受講期間中は北海道名寄市に滞在していた。
自力でプロジェクトを起こせるようになりたい
さとのば大学に興味をもった理由を教えてください。
高校時代からお世話になっている先生が紹介してくれました。中高時代からプロジェクトを実践しながら学んでいくスタイルがすごく楽しかったんです。大学に入ってからも手を動かしながら学びを深めたいと思っていたものの、自分でプロジェクトをやる方法がまったくわからず、モヤモヤしていました。
いろいろやっていた高校時代も、先生たちがセッティングしてくれる中でしかやってきていなかったんです。だから、自分でプロジェクトを起こして進めていける人になりたい、という気持ちが強くあって、さとのばを受講したら自分が変われるんじゃないかと考えていました。
さとのば大学の期間でやりたいことは決めていましたか?
それが全然わかっていなかったんです。
実は、そこに焦りがありました。高校時代の友人たちがアクティブに活動していることはよく耳に入っていて。頭の中で考えることばかりで、なかなか行動できていない自分と彼らを比較していました。そういう意味では、葛藤や焦りもさとのばに飛び込んだ理由だったと思います。
暮らしや遊びの中にも、学びはたくさんつまっていた
さとのば大学が始まって、最初の2週間はどんな感じでしたか?
滞在地域の北海道名寄市に移動したのはちょうど2週目の終わりだったので、最初は実家からオンライン講義のみを受けている状況でした。でも、講義が予想以上に刺激的で楽しくて、地域に入る時はちょっと面倒な気持ちもあったのが正直なところでした。このまま家で受けるだけでもいいじゃん〜みたいな感じで。(笑)
そうだったんですね。(笑) 地域に入ってからはどんな日々を過ごしていましたか?
プロジェクトをどうしていくか考えつつも、はじめは地域のおばあちゃんたちと話したり、自然の中に遊びに行ったり、まずは名寄を知るためにたくさん遊んでいました。
あと、はじめて自炊中心の生活をするのがおもしろかったんですよね。地場産のおいしい野菜や、新鮮な魚が安く手に入って、どう料理したらおいしいかな?とたくさん挑戦と実験をしていました。

おお、すごく充実していそうです。プロジェクトに限らず、暮らしのなかで学んでいくこともありましたか?
まさにその通りです。そもそも料理初心者っていうのはあったんですが、煮魚をはじめて作る時でも、玉ねぎの切り方を工夫する時でも、どんな場面でも気づけることがたくさんありました。よくわからないまま塩ダラを煮込んで、謎の料理ができあがったとき、「料理ってクリエイティブだな!」と思いました。とにかく好奇心と発見がつまった体験で、はまっていました。
好奇心が伝わってきます。 おいしいものを作りたいというゴール、その日に手に入る食材と自分の料理スキルというリソース、みたいに捉えると、マイプロ曼荼羅(※)と似ているようにも見えてきました。リソースやゴール、実験好きな自分、それらの要素から料理が立ち上がってくる、みたいに。
たしかにそうですね。
失敗も多くて、例えばじゃがいもの芽を見逃して何度か腹痛にも見舞われたのですが、実験から学習していくサイクルは自分が求めていたプロジェクト実践で学んでいくスタイルと近かったように思います。そしてそれは、生活の中にもたくさん眠っているんだと知れました。
※マイプロ曼荼羅:さとのば大学でプロジェクトを考えるヒントとして活用されているもの。自分から始まるプロジェクト実践を「マイプロジェクト(マイプロ)」と呼んでいる。
その人独自の視点がもっといかされる社会にしたい
マイプロジェクトはどんなことをしていましたか?
「変態」について自分なりに探究していました。自分のほしい未来と自分のあり方、社会に対して抱いている違和感、そういったものたちを結び付けていくときのキーワードになると考えていたんです。具体的には、名寄で知り合った生物にとても詳しいAさん(=仮名)とほぼ毎日会って話をしたり、森に連れて行ってもらって一緒に歩いたりしました。そして、さとのばのホスティングチャレンジ(※)や発表の場を使って考えたことを表現しました。
※ホスティングチャレンジ:講義のひとつ。受講生が場のホストとなり、形式は自由にコンテンツを届けることで、自ら一歩踏み出す練習の場としている。

そのプロジェクトに辿り着くまでには、どんな経緯があったのでしょうか。
はじめに話した通り、さとのばを受ける前、何かはしたいけどやりたいことは特に見えていない状態でした。講義の中で最初にマイプロを考えた時は、名寄が今より楽しい場所になっていくという未来を置こうとしていました。だけど、メンタリングをしてもらっていくうちに、それは「自分のほしい未来」ではないなと気づいたんです。
自分の奥底にある願いは何だろうと深掘りしていくと、大学AO入試の頃に考えていた「失敗が許される社会」というものが浮かび上がってきたんです。じゃあこれを具体化していくってどういうことか?と考えていった先に、個人個人の「変態性」が認められることが大事なように思いました。
もう少し話すと、Aさんひとりを対象にして進めていったのにも理由があります。深掘りしていくことや人の行動の裏側まで観察するのが好きなことから、講義内で「スパイ」というbeの肩書き(※)をもらっていました。広く見渡すのではなく、あえてひとりの人から普遍的なエッセンスを抽出することにトライしていたんです。
※beの肩書き:do(していること)ではなくbe(あり方)をヒントに「自分らしさ」を”肩書き”にしたもの。
なるほど。服選びでいえば、見た目のよさだけに引っ張られず、きちんと自分の身体にフィットするものを選ぶ。そんなふうに、自分の実感や根っこの部分を大事にしながらプロジェクトをつくっていったようなイメージが湧いてきました。 実際にやってみて、どうでしたか?
まずは、地域コーディネーターの方から生物オタクだと紹介していただいた、私よりちょっと年上のAさんにインタビューをしてみました。Aさんは生物に関する知識が半端ではないのですが、それを仕事にはいかすことができていないことに悩んでいると聞き、悲しかったんです。
生物の話になるとこんなにも輝くのに、あまりやりたくない仕事をしなきゃいけなくて、その変態っぷりが発揮されていないことにモヤモヤしました。変態な人が変態性をいかしながら生きていける社会が私のほしい未来なんだと、その時に改めて思いました。

遼馬さんが考える「変態」について、詳しく教えてほしいです。
私が変態と呼んでいるのは、ひとことで表すなら、「自分の世界をもった人」のことです。何かの分野や事柄について熱く語ることができたり、自分独自の視点や考え方をもっている人、とも言えます。
同時に、私はすべての人が変態性をもっているはずだと思っているんです。それは“賜物”のようなイメージで、みんなが持っている。けれど、それが表に出てくるためには「見つける」「育てる」「活かす」の三段階のステップが必要なんじゃないかと。そして、それをひとりでやっていくのはやっぱり難しいところがあって、いい意味で他人に頼ることも大切だろうと考えています。
新たな自分に出会い、ほしい未来をイメージし、行動を起こし続けたい
さとのば大学期間から、特に持ち帰りたい学びは何ですか?
「自分のほしい未来を探究する」ということです。
外部からの情報として入ってくる「課題」を解決しようとか、危機感を動機にしていくよりも、内側から湧き出てくる理想の未来をつくるためのアクションを考えていきたいです。
そのためには、自分についてさらに知っていくことが大切だなとも思います。同じ地域にいた受講生の仲間が自己開示している様子を見て、自分の感情と向き合い、自分の気持ちに正直でいようとするのが心地いいんだ、ということにも気づかせてもらいました。
4月になり大学生活も再開したのですが、履修登録のとき、本当に興味のあることを選ぶようになりました。小さなことですが、大学から家までのルートもその日の気分で変えるようにしています。

行動に移すのが早いですね!数ヶ月前の遼馬さんからはだいぶ変化がありそうですね。
はい、そうですね。とにかくやってみようと思えるようになりました。
今は、どんどん新しいことに挑戦し続けたいです。今までは何か思いついても理由をつけてやめていたけど、その殻が破れたような感覚があります。
歴史が大好きなので、おもしろい歴史の授業をつくるプロジェクトや、探究的な学びのデザインを考えるプロジェクトに関わらせてもらうようにもなりました。
今まであまり興味を持ってこなかったビジネスや日本という国についても関心を持ち始めたので、大学で学んでいこうと思っています。
やりたいことがどんどん出てきますね。最後にひとつ、気になったことがあります。さとのば大学を受講する前に感じていた「焦り」は、今はどう考えていますか?
焦りはなくなった感じがしています。周りの人たちのことをそんなに気にしなくなりました。自分のほしい未来を追究することがいちばん大事になったからだと思います。
あとは、できないことを嘆いているより、どうしたらできるようになるかを考え、実践していた方が楽しくていいなあって感じたんです。嘆いているだけだと、虚しさがあるんですよね。
きっとこれは、さとのばで小さくともプロジェクトを進められたという成功体験が大きいような気がしています。「やってみたらなんとかなるんじゃない?」が自然体でできるようになってきました。
終わりに
読んでくださったみなさん、インタビューに答えてくれた遼馬さん、ありがとうございました。
人ってそんなに変化できるんだ、と純粋に驚きもありつつ、温かい気持ちになりました。僕自身は、人の内面の変容に興味があるので好奇心も止まりません。
遼馬さんの口からポロっと出てきた「やってみたらどうにかなるんじゃない?」という言葉が、印象に残っています。その場にとどまっていることに違和感があるなら、恐れを乗り越えて一歩を踏み出してみようよ、と背中を押してくれるような、そんなメッセージを感じました。
(聞き手:黒澤季理)
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